採用してもすぐ辞めてしまう。その原因は、本人の資質よりも「役割」にあるのかもしれません。定着しない会社に共通する構造と、見直しの手順です。
公開日:2026年11月6日|文:村尾 政則
「せっかく採用したのに、数か月で辞めてしまった」「教えた頃に、別の仕事を選ばれてしまう」。人が定着しない悩みは、多くの中小企業の経営者が抱えています。
こうしたとき、原因を給与や人間関係、本人のやる気に求めがちです。もちろんそれらも大切ですが、見落とされやすいのが「その人に任せている役割が、本人に合っているか」という視点です。
社員が定着しない会社を見ていくと、役割のつくり方に共通点があることが多いものです。
これは誰かが悪いというより、役割の決め方が個人任せ、状況任せになっている構造の問題です。構造が変わらないまま人を入れ替えても、同じことが繰り返されてしまいます。
成果が出ない、すぐ辞める。そんな社員を見ると、つい「能力が足りない」と考えてしまいます。しかし、同じ人でも、仕事の内容や周りの人との組み合わせが変わるだけで、力の出方は大きく変わります。
人と話すのが得意な人に、黙々とデータ入力だけを任せる。手順を整えるのが得意な人に、毎回ゼロから企画を考えさせる。どちらも、その人の力を発揮しにくい配置です。本人も「ここは自分の居場所ではない」と感じやすくなります。
さらに、役割が合っていない状態が続くと、本人は「頑張っても評価されない」と感じやすくなります。周りも「あの人は使えない」と見るようになり、本人の居づらさが増していきます。こうして、辞める前の段階で、気持ちが職場から離れていくのです。
村尾は約28年、営業と組織づくりの現場に携わってきました。その経験から言えるのは、「能力がないから成果が出ない」のではなく、その人に合った環境・役割・仕組みが整っていないために、力を発揮できていない人が多いということです。
最下位だったメンバーが3か月で全国10位以内に入ったときも、変わったのは本人の能力ではなく、環境と役割でした。人を変えようとするのではなく、活躍できる環境をつくる。この考え方が、定着の問題にも当てはまると考えています。
役割のずれは、入社直後だけでなく、仕事が増えたり人が入れ替わったりするなかで少しずつ生まれます。気づいたときには、本人が黙って我慢している場合も少なくありません。だからこそ、辞めてしまってから振り返るのではなく、日頃から役割の状態を確かめておくことが大切です。
まず、社員一人ひとりが何が得意で、どんな場面で力を出しやすいのかを知ります。LIFE UPDATEでは、脳傾向性診断やチーム分析を使った「人の棚卸し」でこれを整理しています。面談で聞き取るだけでも、思い込みと違う面が見えてくることがあります。
次に、各自の役割で「何を」「どこまで」やるのかを書き出します。成果の基準や、判断に迷ったときの相談先も決めておくと、本人は安心して動けます。入社前に伝える内容と実際の仕事のずれも、ここで点検できます。
強みと仕事の中身を照らし合わせ、合っていないところは役割を分け直します。一度決めて終わりにせず、仕事や人が変わるたびに見直すことが大切です。苦手な部分を補い合える組み合わせを意識すると、チームとしても動きやすくなります。
人が辞めるたびに募集をかける形になると、現場の負担も採用のコストも大きくなっていきます。採用を考える前に、今いる人の役割が合っているかを確かめるだけでも、状況が変わることがあります。人手不足そのものの考え方は、人手不足は、採用だけでは解決しないでも書いていますので、あわせてご覧ください。
ここで気をつけたいのは、役割を見直す際に、本人と話す時間を取ることです。経営者が一方的に決めるのではなく、「どんな仕事なら力を出しやすいか」「どこで困っているか」を聞くことで、思いもよらない発見があります。小さな会話の積み重ねが、本人の納得感と安心感につながります。
社員が定着しない原因は、待遇や本人の資質だけではなく、役割が本人に合っていない、あるいは言葉になっていないことにある場合があります。人の強みを知り、仕事の中身と期待を言葉にし、役割を合わせて見直す。この積み重ねが、人が力を発揮し続けられる職場につながります。
人の棚卸しの具体的な内容は、人の棚卸し(脳傾向性診断・チーム分析)のページで紹介しています。